パワエレ学生の備忘録

電気電子,パワエレ(特にスイッチング電源やモータ),制御工学や趣味に関すること,を赴くままに綴る,便所の落書きのようなところ/保有資格:第三種電気主任技術者,第一種電気工事士

【古典制御】安定判別法②(Nyquistの安定判別法の証明)

 前回は,古典制御で考える安定の定義について明らかにし,システムが安定であるための条件をシステムの伝達関数から求めることができることを確認した.

 今回は,閉ループ伝達関数の性質より,特性方程式を評価するだけで安定が判別できることを示し,複素解析を用いて,Nyquistの安定判別法を証明する.

 

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フィードバックシステムのブロック線図

 

 再掲するが,図のようなフィードバックシステムの閉ループ伝達関数は,

 $$ G_{\rm close}(s) = \frac{G_{\rm c}(s)G_{\rm plant}(s)}{1+G_{\rm c}(s)G_{\rm plant}(s)H(s)} $$

 で与えられる.

 閉ループ伝達関数の性質

$$ L(s) = 1+G_{\rm c}(s)G_{\rm plant}(s)H(s) $$
としたとき,
$$ G_{\rm close}(s) = \frac{G_{\rm c}(s)G_{\rm plant}(s)}{L(s)} $$
ここで,
$$ G_{\rm c}(s)G_{\rm plant}(s) = \frac{C(s)}{D(s)},\ H(s) = \frac{Q(s)}{R(s)} $$
と表せたとする.ただし,\( C,D,Q,R\)は分母に\(s\)を持たない多項式である.
すると,閉ループ伝達関数は,
$$ G_{\rm close}(s) = \frac{\frac{C}{D}}{1+\frac{C Q}{DR}}=\frac{CR}{DR+C Q} $$
となる.一方で,特性方程式は,
$$ L(s) = 1+G_{\rm c}(s)G_{\rm plant}(s)H(s) = 1+ \frac{C Q}{DR} = 0 $$
となる.通分して,
$$ \frac{DR+C Q}{DR} = 0 $$
さらに整理すれば,結局特性方程式は,
$$ DR+C Q = 0 $$
を解くことになる.
以上より,安定条件をこのように言い換えることができる:

閉ループ伝達関数が安定である必要十分条件

閉ループ伝達関数\( G_{\rm close}(s) \)が安定であるためには,\( L(s) \)の零点がすべて左半平面に存在している

 

複素解析を用いた安定判別

 さて,低次元であれば\( L(s) \)の零点を因数分解から調べるのは有益であるが,高次になれば困難になる.そこで,複素解析の知見を応用し,図的に安定判別をする.
具体的には次の原理を利用する:

偏角の原理
\( C\)を複素閉右半平面\( \mathbb{C}\)内の区分的に連続微分可能な単純閉曲線であり,反時計回りの方向に動くものとする.
このとき, \( C\)の内側にある\( f\)の零点および極の個数を, 重複するものも数えてそれぞれ\( N, P\)とする.
また,\( f\)は \( C\)上で極も零点も持たないとする. このとき,
$$ \oint_{C}\frac{f'(s)}{f(s)}ds = 2\pi j(N-P) $$
が成り立つ.

(証明は記事を改めて示す) 


 一方,置換積分により,
$$ \oint_{C}\frac{f'(s)}{f(s)}ds = \int_{\Gamma}\frac{1}{f(s)}df(s) $$
と置き換えれる.

 また,\( f\)は複素数であるから,
$$ f = x+jy = r\varepsilon^{j\theta} $$
と置くことができる.

 さらに,
$$ df = \frac{\partial f}{\partial r}dr+\frac{\partial f}{\partial \theta}d\theta = \varepsilon^{j\theta}dr+jr\varepsilon^{j\theta}d\theta $$
とできることから,
$$ \frac{1}{f(s)}df(s) = \frac{1}{r}dr + jd\theta $$
なので,
$$ \int_{\Gamma}\frac{1}{f(s)}df(s) = (\ln r - \ln r_0) + j(\theta - \theta_0) $$
となる.

 \( C\)は閉曲線であり,積分開始点と積分終了点における半径は同一であるので,上式実部は\( 0\)になる.
したがって,
$$ \frac{1}{2\pi j}\oint_{C}\frac{f'(s)}{f(s)}ds = \frac{\theta}{2\pi} $$
となり,偏角の原理の左辺にそって周回積分して係数を乗ずると,回転数が計算できることになる.

 さらに,調べたい閉曲線\( C\)であるが,複素解析では一般に反時計回り方向に取る.一方で,制御工学における\( s\)領域の虚軸は周波数を表しているため,時計回りに回すほうが都合が良い.

 結果は反時計回りに積分したものと符号が逆になるが,たかだかそれだけのことであるので,制御工学の慣例に従い,時計回りに積分することにする.

 具体的には,閉曲線内の領域を右半平面全域としたいが,その閉曲線は,虚軸上に\( -\infty\)から\( +\infty\)に変化させ,\( (0, +\infty)\)から時計回りに原点を中心として,半径を無限大にし,\( (0, -\infty)\)まで回した線になる.

 つまり,偏角の原理の左辺は,
$$ \oint_{C}\frac{f'(s)}{f(s)}ds = -\oint_{C'}\frac{f'(s)}{f(s)}ds = \int_{-\infty}^{+\infty}\frac{f'(j\omega)}{f(j\omega)}d\omega+ \lim_{R\rightarrow +\infty}\int_{-\pi /2}^{\pi /2} \frac{f'(R\varepsilon^{j\theta})}{f(R\varepsilon^{j\theta})}d\theta $$
となる.図で表せば,このようになる:

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右半平面に存在する極と零点およびそれらを囲む曲線


 ちなみに,図中のバツマークは極,マルは零点を表す.

 右辺第二項は極限を計算すると0になることから,偏角の原理の周回積分は,虚軸のみの積分で済む.

 また,\( G_{\rm c}(s)G_{\rm plant}(s)H(s)\)はプロパーであることから,
$$ \lim_{s\rightarrow +\infty}L(s) = {\rm const.} $$
となるので,やはり,虚軸上以外の曲線を辿る際の偏角は変化しない.

 改めて書き直すと下記のようになる:

安定判別補助命題(偏角の原理アレンジ)
右半平面に存在する\( f\)の零点および極の個数を, 重複度も数えてそれぞれ\( N, P\)とする.
また,\( f\)は虚軸上で極も零点も持たないとする. \( f(j\omega) \)を虚軸上で\(-\infty\)から\( +\infty\)まで変化させたときの回転角度を\( \theta\)とすると,
$$ P-N = \frac{\theta}{2\pi} $$
が成り立つ.

 ところで,\( G_{\rm c}G_{\rm plant} \)および\(H(s)\)が右半平面の極を持たないとしたとき,\( L(s)\)は右半平面の極を持たない.

 したがって,この場合,閉ループが安定であるといえるためには,\( \theta \)が0でなければならない.すなわち,回転数ゼロ.

 一方で,\( G_{\rm c}G_{\rm plant} \)が右半平面の極を持つとき,その極の数だけ\( L(s)\)は右半平面の極を持つ.

  したがって,この場合,閉ループが安定であるといえるためには,右半平面の極の数だけ反時計回りに回転しなければならない.

 したがって,長かったが,安定判別法は次のように書き換えることができる:

Nyquistの安定判別法
閉ループ伝達関数\( G_{\rm close}(j\omega)\)が安定であるためには,\( L(j\omega)\)について,\( \omega\)を\( -\infty\)から\( +\infty\)まで変化させたときに,原点を回る回転数\( n\)が,下記の場合分けしたときの数であれば安定である:

  • \( G_{\rm c}G_{\rm plant}\)が不安定極を含まない場合:回転数0
  • \( G_{\rm c}G_{\rm plant}\)が不安定極を含む場合:左記不安定極の数と一致する回転数

 

 また,一般に制御工学では一巡伝達関数\( T(s)\)を安定性の評価に用いられることから,原点でなく,\( (-1,j0)\)を回る回転数,としても良い.

 ただし,Nyquistの安定判別法を実際に用いる際には,\( \omega\)を\( -\infty\)から\( +\infty\)まで変化させる必要はなく,下記の簡易的な手法が採られる:

Nyquistの簡易安定判別法
閉ループ伝達関数\( G_{\rm close}(j\omega)\)が安定であるためには,\( G_{\rm c}G_{\rm plant}\)が不安定極を含まないという条件のもとで,\( L(j\omega)\)について,\( \omega\)を\( 0\)から\( +\infty\)まで変化させたときに,その軌跡が\( (-1, j0)\)を左側に見れば安定である.

  これは,周波数軌跡の対称性を利用している.

 さて,これまでの議論は,虚軸上に沿って伝達関数を調べるものであったが,虚軸上に極があった場合は少し工夫が必要である.

 実際のシステムは積分器を含むことが多く,その場合は虚軸上に極を置くことになるため,この概念は重要である.

 これらを含めて,次回さらに厳密に考えていく.