ステップ/ランプ入力に対する定常特性について
下図のようなフィードバックシステムにおける定常特性を考える.
フィードバックシステムの目標のひとつに,指令値に追従することが挙げられる.
指令値の特性は現実的にステップ入力が最も多く,ランプ入力もシステムによってはあり得る.
これらの指令値に対して出力が指令値に収束するためにはどのような条件が必要かを考える.
入力\(R\)に対する偏差\(E\)の伝達関数は,
$$\dfrac{E}{R} = \dfrac{1}{1+G_{\rm c}G_{\rm plant}H}$$
で表される.定常状態では偏差\(e\)がゼロに収束することが望ましい.
すなわち,最終値の定理を用いれば,
$${\displaystyle \lim_{t\rightarrow +\infty}}e(t) = {\displaystyle \lim_{s\rightarrow +0}}sE(s) = {\displaystyle \lim_{s\rightarrow +0}}s\cdot\dfrac{1}{1+G_{\rm c}G_{\rm plant}H} \cdot R(s) = 0$$
となる.指令値がステップ入力,すなわち,\(R(s)=K/s\)であるとき,
$$\dfrac{K}{1+G_{\rm c}G_{\rm plant}H} \underset{s\rightarrow 0}{\longrightarrow} 0$$
となればよく,\(G_{\rm plant}\)および\(H\)に微分要素がなく,\(G_{\rm c}\)に積分器が少なくとも1つ含まれていれば偏差はゼロ,すなわち指令値に収束する.
一次遅れ系のプラント\(G_{\rm plant} = 1/(1+s)\)に対して,補償器を\(1\),\(1/s\)の2パターンを用意し,ステップ入力を与えた際の応答波形は下図のようになる.
青が積分器を持たない場合,赤が積分器を一つ持つ場合のステップ入力に対する偏差であるが,青は偏差が0.5だけ残っているのに対して,赤はゼロに収束していることがわかる.
一方,ランプ入力の場合,\(R(s) = K_{v}/s^2\)として
$$\dfrac{K_v}{s}\cdot \dfrac{1}{1+G_{\rm c}G_{\rm plant}H} \underset{s\rightarrow 0}{\longrightarrow} 0$$
となるには,\(G_{\rm plant}\)および\(H\)に微分要素がなく,\(G_{\rm c}\)に積分器が少なくとも2つ含まれていればよいことになる.
プラントは先程と同様に,補償器を\(\dfrac{1}{s}G_{\rm plant}^{-1}\),\(\dfrac{1}{s^2}\cdot G_{\rm plant}^{-1}\)の2パターンを用意し,ランプ入力を与えた際の応答波形は下図のようになる.
青は積分器1つ,赤が積分器2つのランプ入力に対する偏差応答波形である.青は予想通り,非零の値に収束していることがわかるが,赤が発散している.
これは,積分器を2つ入れたことにより,位相が180°遅れており,さらにプラントは一次遅れ系であるから,全帯域において180°以上遅れていることになる.安定定理より,不安定であることが直ちにわかる.
※安定性について,詳細は下記を参照:
そこで,補償器を,
$$G_{\rm c} = \dfrac{(1+s)^2}{s^2}$$
とする.このシステムの一巡伝達関数をボード線図にプロットすると下図のようになり,安定になっていることがわかる.
そこで,あらためて,ランプ応答波形を下図に示す.
積分器を2つ含む系はゼロに収束していることがわかる.
一般に,一巡伝達関数\(T(s) = G_{\rm c}G_{\rm plant}H\)の中に積分器がn個含まれている場合,そのシステムはn型サーボ系と呼ばれる.
積分器を補償器にできるだけたくさん持たせることは,どのような指令値であっても収束するというメリットがある.
一方で,周波数特性上,積分器は1つ含まれるごとに位相が90°遅れるため,安定性の観点から見るとできるだけ少ないことが望ましい.
また,安定性を確保するために,積分器に加え,積分器の遅れを補償するために一次進み系が必要になる.アナログでは実現回路が複雑になり,ディジタルでは演算量が増大するため,こちらの観点からもやはり積分器の必要最小限に設定されるべきである.