パワエレ学生の備忘録

電気電子,パワエレ(特にスイッチング電源やモータ),制御工学や趣味に関すること,を赴くままに綴る,便所の落書きのようなところ/保有資格:第三種電気主任技術者,第一種電気工事士

周波数応答で考える制御特性

ある制御系についての特性を評価する場合,古典的なフィードバック制御系であれば,一巡伝達関数を調べることが一般的である.

一方,指令値から出力への閉ループ伝達関数を考えたほうが直感的に評価できるような気はする.

しかし,実際に考慮しなければならない特性は他にもあり,それらは閉ループ伝達関数から求めるには少し煩雑な手続きを経なければならない.

では一巡伝達関数を用いてどのように評価するのだろうか.

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フィードバック制御

 

外乱・観測雑音に関する検討事項

フィードバック制御系は指令値に対する出力の応答だけでなく,外乱\( D \)や観測雑音\( N \)に対する特性も考慮しなければならない.

\(D\),\(N\)が出力に及ぼす影響は当然最小限にしたい.

\(D\)から出力\(Y\)までの伝達関数\(L(s)\)は,$$ L(s) = \dfrac{G_{\rm plant}}{1+G_{\rm plant}K_{\rm v}G_{\rm c}} $$

で与えられ,\(N\)から\(Y\)までの伝達関数\(M(s)\)は,$$ M(s) = \dfrac{K_{\rm v}G_{\rm c}G_{\rm plant}}{1+K_{\rm v}G_{\rm c}G_{\rm plant}} $$

となる.

ところで,一巡伝達関数は,$$ T(s) = G_{\rm c}G_{\rm plant}K_{v} $$

で与えられるので,先程の伝達関数はそれぞれ,$$ L(s) = \dfrac{G_{\rm plant}}{1+T(s)},\ M(s) = \dfrac{T(s)}{1+T(s)} $$

になる.

\(L(s)\),\(M(s)\)は,理想的には全帯域でゼロ(オールカットフィルタ)であることが望ましい.

ただし,これを満たすには\( G_{\rm plant}(s)=0\)もしくは,\(1+T(s)\rightarrow \infty\)である必要があるが,\( G_{\rm plant}(s) \)はすでに与えられており,非零であることがほとんどであるため,後者の\( 1+T(s)\rightarrow \infty\)を目標とする.

一方,上記条件のもとでは,\( M(s) \rightarrow 1 \)となり,ノイズがそのまま出力まで通過してしまう.

\( M(s) \)についての最適な条件は,\( 1+ T(s) \)を零にすることであり,すなわち\(T(s)\rightarrow 0\)とすることである.

よって,外乱の抑制と観測雑音のそれはトレードオフの関係になってしまう.

 

一般に,外乱は低周波成分を多く含み,観測雑音は高周波成分を多く含むとされている.

そこで,一巡伝達関数について,低周波領域ではゲインを可能な限り大きくし,高周波領域では小さくすることで,目標は達成できる.

 

さて,低周波から高周波にかけてゲインは減少するため,その間にゲインが0 dBとなる点が存在する.

ゲインが0 dBとなる周波数における位相は,安定性を評価する上で極めて重要な要素である.

詳細はすでに下記リンクにて記しているとおりであるので省略するが,そのときの位相が-180°より大きければ,不安定でないとされている.

enotyama.hatenablog.com

 

また,実際にはこの位相が-180°より大きいほど安定であり,この値を位相余裕と呼ぶ.

サーボ系であれば,45°~60°程度が一般的な値とされている.

 

ところで,Bodeの定理より,最小位相系(極はすべて安定である系)は,ゲインの勾配と位相の傾きとが一対一対応することが明らかである.

したがって,システムをできるだけ安定にしようとする場合,ゲインの勾配を大きくすることはできない.

 

以上の方針より,ループ整形法と呼ばれる手法が,一巡伝達関数を用いた設計法として考案されている.

ループ整形法とは,一巡伝達関数のゲイン勾配が,

  • 低帯域:-40 dB/dec (外乱抑圧性および指令値追従性の確保)
  • 中帯域:-20 dB/dec (安定性,位相余裕とゲイン余裕の確保)
  • 高帯域:-40 dB/dec (観測雑音除去特性の確保)

となるように設計する手法である.

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ループ整形法に基づいた一巡伝達関数のゲイン特性(概略)

ただし,どこまでを低・中・高帯域とするかは,システムにより様々で,位相余裕およびゲイン余裕をどの程度確保したいかによって詳細な設計が決まる.

 

スイッチング電源の制御系設計は,このループ整形法を少し簡略化したものになるが,詳細は改めて記す.