外乱オブザーバが与える安定性への影響について
フィードバック制御系は下図のブロック線図で表現されることが多い.外乱成分\( D \)は,補償器\( G_{\rm c} \)と制御対象\( G_{\rm plant} \)の間に印加されていると考える.
外乱成分は制御性能に悪影響を及ぼすため,極力排除されることが望ましい.
しかし,外乱抑圧特性と雑音除去特性は,一般にトレードオフの関係である.
そこで,\( D \)に対して,それを相殺する要素を与えることで,ループの安定性に影響を与えることなく外乱を除去することができる.下図の\( \tilde{D} \)がそれに対応し,この値は外乱を補償器出力\( U \)と制御対象出力\( Y \)から推定する.
まず,\( \tilde{D} \)を一旦考えないことにし,\( U \)および\( Y \)から\( D \)を推定しようとすると,
$$ Y = G_{\rm plant} \left( U + D \right) $$
から導くことができ,
$$ D = G_{\rm plant}^{-1}Y - U$$
となる.
しかし,一般に,\(G_{\rm plant}\)は厳密にプロパーであることがほとんどであり,\(G_{\rm plant}^{-1}\)はインプロパーとなれば実現不可能である.
そこで,\(G_{\rm plant}\)が一次遅れ系であるとき,
$$ \tilde{D} = \frac{1}{1+\frac{s}{\omega_{\rm LPF}}}\cdot \left( G_{\rm plant}^{-1}Y - U\right)$$
とすることで,実現可能となる.ただし,\( \omega_{\rm LPF} \)は外乱成分の周波数成分に対して十分高いものとする.
また,\(G_{\rm plant}\)が一次遅れでなく,二次系であった場合は二次のLPFを入れることで実現可能である.
整理すると,下図のように表すことができる.
さて,外乱オブザーバが与える安定性への影響について検討する.
外乱を相殺しているだけなので,直感的に考えればループの安定性に影響を及ぼさないことは理解できるが,一応,数式問題ないことを確認する.
考えやすいように下図のように描き直す.
LPFを\( G_{\rm LPF}\)とすると,補償器から見た,出力\( Y \)までの伝達関数\( G_{\rm plant}' \)は,
$$ G_{\rm plant}' = \dfrac{(1-G_{\rm LPF})^{-1}G_{\rm plant}}{1+(1-G_{\rm LPF})^{-1}G_{\rm plant}\cdot G_{\rm plant}^{-1}\cdot G_{\rm LPF}} = \dfrac{G_{\rm plant}}{(1-G_{\rm LPF})+G_{\rm LPF}} = G_{\rm plant}$$
となり,外乱オブザーバはループの安定性に影響を及ぼさないことが分かる.
また,雑音除去特性についても,制御対象の等価伝達関数が上記のとおりであることから,影響を及ぼさないことがわかる.