パワエレ学生の備忘録

電気電子,パワエレ(特にスイッチング電源やモータ),制御工学や趣味に関すること,を赴くままに綴る,便所の落書きのようなところ/保有資格:第三種電気主任技術者,第一種電気工事士

【解析力学】汎関数問題について

 汎関数は,

$$F = \int_a^b f(x,y,y')dx$$

で定義される\(F\)のことをいう.汎関数は物理,特に力学に関する問題を解くのに有益で,例えば最速降下曲線問題に有効である.

 一方で,汎関数問題は,解析力学を学ぶ上でつまずくポイントでもあるので,雑多ながらまとめておく.

 まず,汎関数の性質について解説する前に,汎関数が必要になる例を紹介する.

  汎関数問題の例

 汎関数問題は力学において以下の例がある:

  • 最速降下曲線
  • 懸垂線

最速降下曲線

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最速降下曲線問題の図

 ある地点\(a\)から\(b\)までの距離を,高さ\(B\)まで重力に従って最短の時間で下れるような曲線を,最速降下曲線という.

 ここでひとまず,地点\(x\)における高さを\(y(x)\)とし,2点間を曲線が結ぶ距離を\(L(y)\)とすると,線積分の定義から,

$$L(y) = \int_a^b\sqrt{1+y'(x)^2}dx$$

で表される.

 さて,エネルギー保存則より,運動エネルギーと位置エネルギーは等しいことから,速度を\(v\),移動する物質の質量を\(m\)としたとき,

$$\frac{1}{2}mv^2 = mgy(x)$$

なので,

$$v = \sqrt{2gy(x)}$$

となる.

 したがって,2点間を移動する時間\(T(y)\)は,

$$T(y) = \int_a^b \sqrt{\frac{1+y'(x)^2}{2gy(x)}}dx$$

となる.

 この\(T\)を最小にするような\(y\)を選ぶことで,最速降下曲線がわかる.

懸垂線

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懸垂線問題の図

 同じ高さの電柱があり,それぞれの頂上にくくりつけた曲線を考える.この曲線は重力により,垂直方向に弛むことから,懸垂線と呼ばれる.

 両端の高さを\(h\),ひもの長さを\(l\),ひもの単位長さ当たりの質量を\(m\)とする.ここで,地点\(x\)における高さを\(y(x)\)としたとき,つぎの汎関数\(U\)を考える.

$$U(y) = \int_a^b \left( m\sqrt{1+y'(x)^2} \right)gy(x)dx$$

 これは,曲線の位置エネルギーの総和を考えていることになる.物質は重力により,常に位置エネルギーを最小にする方向に移動するため,この汎関数\(U\)を最小にするような\(y\)について,$$y(a)=y(b)=h$$のもとで解析すると,懸垂線がどのような曲線であるかがわかる.

 

上記のような例は,解析したい方程式を立てることはできたが,問題自体を解くことはテクニックが必要である.そこで,以下のように,これらの問題をまず一般化して,汎関数問題を解くためのEuler=Lagrange方程式を導出する.

 

変分問題の一般化

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関数の微小変動

 汎関数

$$F(y) = \int_a^b f(x,y,y')dx$$

の\(f\)を,被積分関数と呼ぶ.被積分関数\(f\)は以後,\(f\lbrack y(x)\rbrack\)として記述する.\(x\)と\(y\)があたえられているため,\(y'\)はカッコ内に記述しなくても自ずと与えられる.

 したがって,

$$F(y) = \int_a^b f\lbrack y(x) \rbrack dx$$

となる.

 微分について考えるときに定義した変化量のように,汎関数の変分問題でも,関数の変化量を定義する.

関数の変化量についての定義

「関数\(y(x)\)を少し変化させる」とは,ごく微小な量\(\varepsilon\)とある任意の関数\(\xi(x)\)に対して,

$$y(x) + \varepsilon \xi(x)$$

とすることである.

  

 さて,汎関数\(F\)は,

$$F(y) = \int_a^b f(x,y,y')dx$$

であったが,\(y \rightarrow y+\varepsilon \xi \)としたとき,

$$F(y) = \int_a^b f(x,y+\varepsilon \xi, y'+\varepsilon \xi ')dx$$

となる.ここで,\(\varepsilon\)について展開したとき,2次以降を無視すると,

$$F(y) = \int_a^b \left( f + \frac{\partial f}{\partial y}\varepsilon \xi + \frac{\partial f}{\partial y'}\varepsilon \xi ' \right)dx$$

と近似できる.

 第3項の積分を考える.\(\xi (a) = \xi (b) = 0\)であることに気をつけると,

$$\int_a^b \frac{\partial f}{\partial y'} \varepsilon \xi 'dx = \left\lbrack \frac{\partial f}{\partial y'}\varepsilon \xi \right\rbrack_a^b - \int_a^b \frac{\partial^2 f}{\partial x \partial y'}\varepsilon \xi dx = - \int_a^b \frac{\partial^2 f}{\partial x \partial y'}\varepsilon \xi dx$$

 したがって,

$$F(y+\varepsilon \xi ) = \int_a^b \left( f + \frac{\partial f}{\partial y}\varepsilon \xi - \frac{\partial^2 f}{\partial x \partial y'}\varepsilon \xi \right)dx$$

と変形できる.

 変分法のゴールは,汎関数極値を調べることである.先の例では,極値を調べることで,最小値がわかるので,変分法の目的と合致する.

 汎関数極値を取るとは,

$$F(y) - F(y+\varepsilon \xi ) = 0$$

とすることである.これには,

$$\int_a^b \left(\frac{\partial f}{\partial y}\varepsilon \xi - \frac{\partial^2 f}{\partial x \partial y'}\varepsilon \xi \right)dx = 0$$

が条件であることがわかる.これが常に成り立つには,

$$\frac{\partial f}{\partial y} - \frac{\partial^2 f}{\partial x \partial y'} = 0$$

が成り立てば良い.
 これが,Euler=Lagrange方程式である.

 では,これを用いて最速降下曲線を求めてみよう.

 

最速降下曲線問題で調べたい汎関数は,

$$T(y) = \int_a^b \sqrt{\frac{1+y'(x)^2}{2gy(x)}}dx = \int_a^b f(x,y,y')dx$$

であった.これが,停留値を取るためには,EL方程式に当てはめればよいが,\(f\)は\(x\)が陽に含まれていないため,合成微分を適用し,

$$\frac{\partial}{\partial x}\left( f(y,y') -y'\frac{\partial f}{\partial y'}(y,y') \right) = \frac{\partial y}{\partial x}\left( \frac{\partial f}{\partial y} - \frac{\partial^2 f}{\partial x \partial y'}\right).$$

 EL方程式より,定数\(c\)を用いて,

$$f - y'\frac{\partial f}{\partial y'} = c$$

が成り立つので,後はこれを解くだけで導出できる.
 

次回は,このEL方程式を基礎方程式とした,Lagrange力学について解説する.