双一次変換のクセ(s-z伝達関数変換)
連続時間領域で設計した補償器\(G(s)\)を離散時間系の補償器\(G(z)\)に変換するための方法はいくつか存在する.
- 前進Euler法
- 後退Euler法
- 双一次変換(Tustin変換)法
今回はこの双一次変換の特徴を中心に考察する.
双一次変換の導出
s領域からz領域への変換は,サンプリング時間を\( T\)とすると,
$$z = \varepsilon^{Ts}$$
で与えられる.これは,\(z^{-1}\)が単位時間の遅れ系であることを考えれば明らかである.
sの指数関数は数値計算不可能であるから,近似をする必要がある.
そこでPade近似とよばれる,制御工学ではよく用いられる手法を利用する.
といってもそこまで難しい手法ではない.分母と分子の次数がおなじになるように工夫し,Taylor展開を用いて,
$$z = \frac{e^{\frac{Ts}{2}}}{e^{-\frac{Ts}{2}}} = \frac{1+\frac{Ts}{2}+\cdots}{1-\frac{Ts}{2}+\cdots} $$
のようにする.わざわざこんな回りくどいことをしているのは,そのままの形で展開すると分子のsに関する次数が高くなる.
すると,制御工学でいうところの,「インプロパー(不適切)な伝達関数」となる.これについてはまた別途解説するとして,何しか(分母の次数)≧(分子の次数)にしておく.
ここで,1次で近似し,
$$ z \simeq \frac{1+\frac{Ts}{2}}{1-\frac{Ts}{2}}$$
これを解くと,
$$ s = \frac{2}{T}\frac{z-1}{z+1}$$
が導ける.これが連続時間から離散時間へ双一次変換する際の定義式である.
例題
問題
$$G(s) = \frac{1}{s}$$
について,双一次変換を用いて離散時間系における伝達関数を導け.
解法
定義に従い,
$$G(z) = \frac{T}{2}\frac{z+1}{z-1}$$
となる.
双一次変換のクセ
さていよいよ本題.さきほど与えた積分系の伝達関数を再度,連続時間系に直してみる.このときは近似ではなく,定義に基づいて逆変換する.すなわち,
$$z = \varepsilon^{Ts}$$
とおく.すると,
$$G(s) =\frac{T}{2}\frac{\varepsilon^{Ts} + 1}{\varepsilon^{Ts}-1} $$
周波数特性を調べる際は\(s=j\omega\)とおくので,
$$G(j\omega) =\frac{T}{2}\frac{\varepsilon^{j T\omega} + 1}{\varepsilon^{j T\omega}-1} $$
分子に注目すると,\(\omega = \pi / T\)つまり,\(f = 1/(2T) \)の点で零,デシベル換算すれば\( -\infty \ {\rm dB}\)となることがわかる.
実際の連続時間系における積分器は\( f\rightarrow +\infty\)で零にならなければならないが,双一次変換では近似により周波数特性が歪んでいることがわかる.
ゲインがサンプリング周波数の点で\( +\infty \ {\rm dB} \)となる点についてはまた改めて解説する.
以上を図にしたのがこれ:
ただし,サンプリング時間は0.1secとした.確かに,\( \omega = \pi / 0.1 = 31.4\ {\rm rad/sec} \)程度でゲインが落ち込んでいることがわかる.
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