パワエレ学生の備忘録

電気電子,パワエレ(特にスイッチング電源やモータ),制御工学や趣味に関すること,を赴くままに綴る,便所の落書きのようなところ/保有資格:第三種電気主任技術者,第一種電気工事士

双一次変換のクセ(s-z伝達関数変換)

連続時間領域で設計した補償器\(G(s)\)を離散時間系の補償器\(G(z)\)に変換するための方法はいくつか存在する.

  • 前進Euler法
  • 後退Euler法
  • 双一次変換(Tustin変換)法

今回はこの双一次変換の特徴を中心に考察する.

 

 

双一次変換の導出

 s領域からz領域への変換は,サンプリング時間を\( T\)とすると,
$$z = \varepsilon^{Ts}$$
で与えられる.これは,\(z^{-1}\)が単位時間の遅れ系であることを考えれば明らかである.

sの指数関数は数値計算不可能であるから,近似をする必要がある.

そこでPade近似とよばれる,制御工学ではよく用いられる手法を利用する.

といってもそこまで難しい手法ではない.分母と分子の次数がおなじになるように工夫し,Taylor展開を用いて,
$$z = \frac{e^{\frac{Ts}{2}}}{e^{-\frac{Ts}{2}}} = \frac{1+\frac{Ts}{2}+\cdots}{1-\frac{Ts}{2}+\cdots} $$
のようにする.わざわざこんな回りくどいことをしているのは,そのままの形で展開すると分子のsに関する次数が高くなる.

すると,制御工学でいうところの,「インプロパー(不適切)な伝達関数となる.これについてはまた別途解説するとして,何しか(分母の次数)≧(分子の次数)にしておく.

ここで,1次で近似し,
$$ z \simeq \frac{1+\frac{Ts}{2}}{1-\frac{Ts}{2}}$$

これを解くと,
$$ s = \frac{2}{T}\frac{z-1}{z+1}$$
が導ける.これが連続時間から離散時間へ双一次変換する際の定義式である.

 

例題

問題

連続時間系であ与えられた,積分伝達関数

$$G(s) = \frac{1}{s}$$

について,双一次変換を用いて離散時間系における伝達関数を導け.

解法

定義に従い, 

$$G(z) = \frac{T}{2}\frac{z+1}{z-1}$$

となる.

 

双一次変換のクセ

さていよいよ本題.さきほど与えた積分系の伝達関数を再度,連続時間系に直してみる.このときは近似ではなく,定義に基づいて逆変換する.すなわち,

$$z = \varepsilon^{Ts}$$

とおく.すると,

$$G(s) =\frac{T}{2}\frac{\varepsilon^{Ts} + 1}{\varepsilon^{Ts}-1} $$

周波数特性を調べる際は\(s=j\omega\)とおくので,

$$G(j\omega) =\frac{T}{2}\frac{\varepsilon^{j T\omega} + 1}{\varepsilon^{j T\omega}-1} $$

分子に注目すると,\(\omega = \pi / T\)つまり,\(f = 1/(2T) \)の点で零,デシベル換算すれば\( -\infty \ {\rm dB}\)となることがわかる.

実際の連続時間系における積分器は\( f\rightarrow +\infty\)で零にならなければならないが,双一次変換では近似により周波数特性が歪んでいることがわかる.

ゲインがサンプリング周波数の点で\( +\infty \ {\rm dB} \)となる点についてはまた改めて解説する.

 

以上を図にしたのがこれ:

f:id:ENOTYAMA:20190826124748p:plain

双一次変換の周波数歪み

ただし,サンプリング時間は0.1secとした.確かに,\( \omega = \pi / 0.1 = 31.4\ {\rm rad/sec} \)程度でゲインが落ち込んでいることがわかる.

 



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