パワエレ学生の備忘録

電気電子,パワエレ(特にスイッチング電源やモータ),制御工学や趣味に関すること,を赴くままに綴る,便所の落書きのようなところ/保有資格:第三種電気主任技術者,第一種電気工事士

【古典制御】安定判別法①(安定とはなにか)

 制御工学,特に古典制御で取り扱うシステムはLTIシステムの下図に示すようなフィードバック制御系であるが,中でも

などが議論の対象となる.

 特に安定性については様々な安定判別法が提案された.現在でも使われている安定判別法は,

  • Routh–Hurwitzの安定判別法
  • Nyquistの安定判別法
  • Bodeの安定判別法

が挙げられる.Routh-Hurwitzはシステムを数値計算で判別する方法であるのに対して,Nyquist,Bodeは図的に判別する方法である.

 Routh-Hurwitzは別の機会に取り上げるとして,今回はNyquistの安定判別法について取り上げる.

 

  記事の構成は数回に分かれ,次のとおりである.

  1. 古典制御で議論する安定について厳密に定義し,システムの伝達関数を評価することで安定を判別できることを明らかにし,安定であるための条件をLaplace変換の結果より示す.
  2. 閉ループ伝達関数の性質より,特性方程式を評価するだけで安定が判別できることを示し,複素解析を用いて,Nyquistの安定判別法を証明する.
  3. 虚軸上に極や零点がある場合の処理方法を解説する.
  4. Nyquistの安定判別法で用いた補題を証明する.

 

 安定の定義と伝達関数

f:id:ENOTYAMA:20190826125029p:plain

フィードバックシステムのブロック線図

 図のようなフィードバックシステムの閉ループ伝達関数は,

 $$ G_{\rm close}(s) = \frac{G_{\rm c}(s)G_{\rm plant}(s)}{1+G_{\rm c}(s)G_{\rm plant}(s)H(s)} $$

 で与えられる.

 安定について再度正確に定義しておく.
 ここでいう安定であるとは,有界入力有界出力(Bounded-Input Bounded-Output: BIBO)安定であることをいう.
BIBO安定の定義は次のとおりである:

BIBO安定の定義

入力\( x(t) \)が,

$$|x(t)| < \infty\ \ (0 \leq t \leq \infty)$$

のもとで任意に与えられ,その出力が\(y(t)\)が,

$$|y(t)| < \infty$$

であるとき,システムはBIBO安定であるという.

 一方で,実際にシステムがBIBO安定であることを実際に確認することは難しい.そこで,次の性質を用いる:

BIBO安定性の必要十分条件

あるシステムがBIBO安定であるための必要十分条件は,そのシステムのインパルス応答\(h(t)\)が,

$$\int_{0}^{\infty}|h(t)|dt < \infty$$

 証明は回を改めることにするが,上の性質により,あるシステムがBIBO安定であることを示すには,インパルス応答が絶対可積分であることを示せばよい.ただ,インパルスは現実世界で実現することは困難である.ではなぜこの性質が嬉しいかと言うと,インパルス応答のLaplace変換が1で与えられるからだ.すなわち,

$$\mathcal{L}\{ \delta (t) \} = 1$$

 システムが伝達関数\(G(s)\)で与えられたとき,BIBO安定を示すには,インパルス応答のラプラス変換\(H(s)\)を評価することになるが,これは,

$$H(s) = G(s)\cdot \mathcal{L}[ \delta (t)] = G(s)$$

となるので,\(G(s)\)を評価するだけで良いことになる.

 

BIBO安定である例

一次遅れ系:

$$G(s) = \frac{1}{Ts+1}$$

のインパルス応答は,

$$h(t) = \mathcal{L}[G(s)] = \frac{1}{T}\varepsilon^{-t/T}$$

であるから,したがって,

$$\int_{0}^{\infty}|h(t)|dt = 1 < \infty$$

となり,BIBO安定である.

下図に一次遅れ系\( 1/(1+s) \)にインパルス入力を与えたときの応答波形を示す.応答は零に収束していることがわかる.つまり,絶対可積分であり,BIBO安定である.

f:id:ENOTYAMA:20190826130910p:plain

BIBO安定でない例

積分器:

$$G(s) = \frac{1}{Ts}$$

のインパルス応答は,

$$h(t) = \mathcal{L}\{G(s)\} = \frac{1}{T}$$

であるから,

$$\lim_{t \rightarrow \infty}\int_{0}^{t}|h(t)|dt = \infty$$

となるので,BIBO安定でない.

 下図は積分器\( 1/s \)にインパルス信号を与えたときの応答である.出力は1で収束していることがわかる.零に収束していないため,無限大まで積分するとき,その値は発散してしまう.なので,これはBIBO安定でないことが図からもわかる.

f:id:ENOTYAMA:20190826131210p:plain

 事実,積分器にステップ入力を与えたとき,下図のような応答になり,発散しているのでBIBO安定でないことが確認できる.

f:id:ENOTYAMA:20190826131249p:plain
 

s領域における不安定要素

 では,\(G(s)\)をどのように評価するか.仮に,

$$G(s) = \frac{a_ns^n + a_{n-1}s^{n-1}+ \cdots + a_{0}}{b_ns^m + b_{m -1}s^{m -1}+ \cdots + b_{0}}$$

で与えられるとし,\(G(s)\)はプロパー,つまり,\(n\leq m\)であるとする.

 ここで,\(G(s)\)の分母分子の多項式因数分解した形:

$$G(s) = k\cdot \frac{(s-z_{i})(s-z_{i-1})\cdots(s-z_{0})}{(s-p_{j})(s-p_{j -1})\cdots (s-p_{0})}$$

の形にできたとする.なお,\(i\leq j\)であり,既約で分母分子の各項が互いに素であるとする.これを部分分数分解すると,

$$G(s) = A\cdot \left( \frac{B_{j}}{s-p_{j}} + \frac{B_{j -1}}{s-p_{j -1}} + \cdots +\frac{B_{0}}{s-p_{0}}\right)$$

になる.

 ここから逆Laplace変換したとき,すなわちインパルス応答を求めるとき,

$$h(t) = A\cdot \left( B_{j}\varepsilon^{p_{j}}+B_{j -1}\varepsilon^{p_{k -1}}+\cdots B_{0}\varepsilon^{p_{0}}+ \right)$$

 これが有界出力であるためには,すべての\(p\)について,実数部が負である必要がある.すなわち,以下のようになる:

BIBO安定性の条件(\(G(s)\)の極について考えた場合) 

システムの伝達関数\(G(s)\)が安定であるためには,\(G(s)\)の極が,複素平面の左半平面に存在している

 

 今回は,古典制御で考える安定の定義について明らかにし,システムが安定であるための条件をシステムの伝達関数から求めることができることを確認した.

 次回はフィードバックシステムにおける伝達関数の性質を利用してより簡便に安定判別ができる方法について考えていく.